米国企業での採用や昇進は成果主義ではなく、能力期待値への投資で行われる

Posted about 7 years ago by yoosee.
  business uscompany

「成果主義」についてのよくある誤解

日本企業で「成果主義」がうたわれるようになってから結構な年月が経った。成果主義という言葉に厳密な定義があるのか分からないが、一般的には「過去の業務の成果を踏まえて人事評価を行う」ことだと思う。またこれは所謂日本企業での「年功序列」に対するアンチテーゼとして導入されることが多い。

8年以上も米国企業で管理職をやっていたので、たまに「米国企業ではどのように成果主義を運用しているのか」などと聞かれて困ってしまう事がある。人事制度としては米国企業には日本で考えるような成果主義というものはほぼない1からだ。米国企業のそれは、勝手に名付けるならば「能力主義」ないし「投資主義」とでも言うべきものだろう。もしくは「効率性賃金(Efficiency Wage)」という単語もあるらしいそれは、未来の成果への期待値に対して給与を出すものだ。

日本のキャリアとは違う、米国のキャリアパスと採用

日本の成果主義は結局のところ、雇用者が辞めずに長年、それも10-20年以上というサイクルで同じ企業に籍をおくことを前提として、その中に定められたほぼ線形の「昇進(昇級・昇格)」という軸を登るスピードを「成果」によって決めるというものだ。レベル1から5に上がるのに遅い人だと10年かかるところ、成果が高い人は5年で上がる、というのが日本の人事制度上の成果主義である。もしくは、最低給与を少なめにして、成果によって年収を大きめに上下させることを「成果主義」と呼ぶこともある。そして実のところ、こうした話は日本企業の給与支払い抑制策でしかないという事情もある。

対して米国のキャリアは同じ会社内での昇進を前提においておらず、転職が前提となる。また日本の総合職での職能が「レベル」という単一評価軸だとして、米国のキャリアパスは以前にも記事を起こしたように、専門能力である「スキルレベル」を組み合わせて上げる事で次の「クラス」につくことができるようになる「クラスチェンジシステム」である。

採用の基本は「仕事内容を業務内容詳細(Job Description)で定義し、ポジションを開けて応募してもらう」形をとる。そして給与額はこのポジションに大きく左右される。つまり、座る席に給与が付いてきて、その席に座れるかどうかの勝負になっている。毎年の評価と昇給・昇格も存在するが、給与や待遇の最大要素は採用時に決まることが多い。社内での昇格でも原理は同じく、社内のポジションに応募して新しい役職に就くというパターンが多い。

これを採用する側から見た場合、多くの米国企業ではチームの管理職・チームリーダー相当が採用者(Hiring Manager)として雇用を行う。つまり「自分の部下は自分の予算で自分で雇う」が基本のところが多い。そしてこの採用の判断材料は履歴書と数回のインタビュー程度でしかない(ゆえに知人のつてなどのコネが重宝される。最近は LinkedIn などビジネスソーシャルネットワーク経由の評判などもよく使われるが、これもつまるところ情報化されたコネである)。

つまり自社で行われた「それまでの成果」ではなく、その人が持っているであろう能力による「この先の成果」に対する期待値に対し、ポジション・給与という資産を投資判断することになる。

能力期待値への投資

良くも悪くも米国企業は解雇が比較的容易である2。なので投資が失敗だと判断されれば投資の引き上げ、つまり解雇が行われる。また逆に従業員が今の投資を上回る成果を出した場合、従業員が転職してしまわないようにより高い待遇を与える必要があり、つまりはより大きな投資が行われる。この考え方はマーケットの馬車馬の和魂洋才シリーズに詳しい。

解雇が比較的容易だといっても、採用コストや雇って最低数か月間の給与、リソース、なにより時間は取り返せない。なのでこの「投資」判断は管理職の能力として非常に重要なものになる。そうした点で、雇用者側から考えても、日本の「成果主義」と米国の人事の考え方はだいぶ違うものだといえる。


  1. ちなみに米国でもいわゆる「成果主義」を中心に据えたやり方がないわけではない。まず前述のように(全体から見ると影響は小さめだが)成果に応じたボーナスや昇給は存在する。また米国での成果主義の一例は Sales incentive と呼ばれる仕組みで、これはつまり「営業職が売り上げに応じたパーセントで給与を受け取る」制度である。 

  2. 「米国では解雇が容易」というのはあくまでも比較的であり、「能力が低いから解雇」する場合には相手に大して「あなたの能力は(ポジションと給与にに対する)期待値に届いていない」と説明するなど手順を踏まなければならない。昨日まで褒めていた人を突然解雇するのは不当解雇として下手すると訴訟になる。例外は企業の中でその仕事・ポジション自体が無くなることで、例えばある自社サービスを終了する際にそのサービスに関わる部門を丸ごと解雇、というのは可能なので、事業整理はしやすい。ただしこの場合も無くしたポジションを簡単に復活させるなどは許されない。
    またこうした解雇のしやすさを「欧米」でひとくくりにするのは大きな間違いで、欧州は米国に比べて全般的に労働者保護が手厚いし、ドイツに至っては日本と比べてもかなり解雇が難しい。会社を倒産させて解雇することですら大きな制約を受けるくらいである。 

 

Spyderco Dragonfly 2 ZDP-189

Posted about 7 years ago by yoosee.
  knife edc

一番気に入っているナイフの話でも。Spyderco Dragonfly 2 ZDP-189 である。Spyderco は米国ではEDCナイフメーカーとしてそれなりに高い知名度がある。日本のAmazonでも売っている

Amazon.comでのレビュー も ☆ 4.7 / 685 reviews と非常に高い。Dragonfly 2 ZDP-189 Review — Everyday Commentary でも数少ない満点を取っている。

Spyderco Dragonfly 2 ZDP-189

ペンとの比較でも分かるようにこのナイフはとにかく小さい。男性の手のひらであれば握った手に完全に収まってしまうくらいに小さい。しかし刃を開いたグリップはうまいくらいに持った手にフィットする。ブレードもこれで木を削ったりものを切ったりという用途には問題なく使える。このデザインの妙が素晴らしい。

Spyderco Dragonfly 2 ZDP-189

ZDP-189 はブレードに使われている鋼の名前である。普通の人には興味が無い話だろうがナイフに使われるスチールは色々な種類があるが、これは普及価格帯のものとしてはかなり硬質でメンテナンスもさほど頻繁に必要がない。

ブレードの刻印を見ると SEKI-CITY JAPAN と刻まれている。刃物で有名な関市のブレードらしい。気軽に買うにはちょっとだけ値が張るナイフだが、それだけの価値は十分になると思う。

なお小さいとはいえナイフなので基本的に携帯は不可なことには留意されたし。

 

Let's encrypt の証明書を certbot を使って更新する

Posted over 7 years ago by yoosee.
  ssl nginx security letsencrypt

Certbot での let’s encrypt 導入

このblogは Let’s Encrypt での HTTPS 化をしているが、去年3月に書いたものから手順というかツールが変わっていた。

Let’s Encrypt + Nginx の導入 - W3er

これまでは Let’s Encrypt から提供された shell script を renew の際に実行していたが、1か月前の実行からエラーで正常更新されなくなっていた。最近の推奨は Certbot らしい。

Certbot

導入自体は Debian なら通常のレポジトリにあるので apt で入れるだけ。

$ sudo apt install certbot 

既に以前に Let’s Encrypt を導入している環境ではあるが、certbot での更新は初めてなので初期化のコマンドを実行。nginx など port 443 を LISTEN しているプログラムは Let’s Encrypt 側からの確認を行うために一時停止が必要。要は当該ドメインの当該Portを管理する権限がこのサーバにあることを確認するためだろうが、この辺の条件は以前と一緒。

% sudo certbot certonly --standalone -d blog.yoosee.net

Saving debug log to /var/log/letsencrypt/letsencrypt.log
Cert is due for renewal, auto-renewing...
Renewing an existing certificate
Performing the following challenges:
tls-sni-01 challenge for blog.yoosee.net
Waiting for verification...
Cleaning up challenges
Generating key (2048 bits): /etc/letsencrypt/keys/0000_key-certbot.pem
Creating CSR: /etc/letsencrypt/csr/0000_csr-certbot.pem

IMPORTANT NOTES:
 - Congratulations! Your certificate and chain have been saved at
   /etc/letsencrypt/live/blog.yoosee.net/fullchain.pem. Your cert will
   expire on 2017-10-09. To obtain a new or tweaked version of this
   certificate in the future, simply run certbot again. To
   non-interactively renew *all* of your certificates, run "certbot
   renew"
 - If you like Certbot, please consider supporting our work by:

   Donating to ISRG / Let's Encrypt:   https://letsencrypt.org/donate
   Donating to EFF:                    https://eff.org/donate-le

cronの定期更新スクリプト /etc/cron.monthly/letsencrypt も変えておく

#!/bin/sh

/etc/init.d/nginx stop
certbot renew 
/etc/init.d/nginx start

nginx 側の設定

fullchain.pem など必要なファイルの場所は以前のスクリプトと変わっていなかったので nginx などの設定を変える必要はなかった。/etc/nginx/sites-available/blog.yoosee.net.conf は以前と変えておらず以下の通り。

server {
        listen 443; # listen for ipv4
        server_name blog.yoosee.net;
        access_log /var/log/nginx/blog.yoosee.net/access.log;
        error_log /var/log/nginx/blog.yoosee.net/error.log;

        root /home/www/blog.yoosee.net/textfi/public;

        client_max_body_size 100m;
        error_page 404 /404.html;
        error_page 500 502 503 504 /500.html;
        try_files $uri/index.html $uri @unicorn;

        ssl on;
        ssl_certificate /etc/letsencrypt/live/blog.yoosee.net/fullchain.pem;
        ssl_certificate_key /etc/letsencrypt/live/blog.yoosee.net/privkey.pem;
        ssl_session_timeout 10m;
        ssl_protocols TLSv1 TLSv1.1 TLSv1.2;
        ssl_prefer_server_ciphers on;
        ssl_ciphers ECDHE+RSAGCM:ECDH+AESGCM:DH+AESGCM:ECDH+AES256:DH+AES256:ECDH+AES128:DH+AES:!aNULL!eNull:!EXPORT:!DES:!3DES:!MD5:!DSS;
        ssl_dhparam /etc/nginx/ssl/dhparam.pem;

        location ~* \.(jpg|jpeg|png|gif|ico|css|js)$ {
                expires 30d;
        }

        location @unicorn {
                proxy_set_header X-Forwarded-For $proxy_add_x_forwarded_for;
                proxy_set_header X-Host $http_host;
                proxy_set_header X-Forward-Proto https;
                proxy_set_header host $host;
                proxy_redirect off;
                proxy_pass http://unicorn;
        }
}

これで SSL Server Test は スコアA が取れている。CAAは残念ながら使っているDNSホスティングではまだ対応していなかったので未対応。

SSL Server Test: blog.yoosee.net (Powered by Qualys SSL Labs)

SSL Server Test

 

Windows 10 のキーマップを日本語配列から英語配列に変更して使う

Posted over 7 years ago by yoosee.
  laptop windows10

日本でラップトップを買うとどうしてもキーボードの配列が日本語のものに制約されがちだ。20年ほど英語配列キーボードに馴染んだ身としては今更日本語配列 jp106 を使うのはストレスがたまるので、キートップを無視して配列を en101 に変更をしたのだが思ったより手間取った。ついでにEmacs風キーバインドのためにkeyhacを導入した。

なお以下の内容はレジストリをいじったりなんだりしているので当然のごとく無保証で、なにかあった際に自力で復旧できる人以外にはお勧めしないし、そもそもキートップの印字とキー入力がずれるということなので、それを理解してもやりたい人は少数だろうが、いないことはなさそうなので備忘録を兼ねて記する。

Keyboard


キーマップを日本語配列から英語配列に変更

これは結構苦戦したのだけど、結果としては下記のレジストリを変更することで MSIME(日本語入力) 利用時も英語配列での入力が可能になった。

Keyboard Layouts\00000411 レジストリの変更

端的には Computer\HKEY_LOCAL_MACHINE\SYSTEM\CurrentControlSet\Control\Keyboard Layouts\00000411Layout Filekbdus.dll に変更することで英語配列での入力ができるようになった。レジストリ変更後にはログアウト⇒ログインないし再起動が必要。これを .reg ファイルとして切り出したものは以下。当該レジストリをバックアップしてから作業することをお勧めする。

Keyboard Layouts は言語ごとのキーマップ定義が登録されているレジストリで00000411が日本語向けということになるわけだが、その配列定義を強制的に英語キーボードのドライバーに書き換えるということをしていることになる。

うまくいかなかった方法: Windows 10 の言語設定からの変更と i804prt\Parameters レジストリの値、またキーボードドライバの入れ替え

下記はうまくいかなかった方法。参考までに。

標準的な方法として、設定 > 時刻と言語 > 地域と言語 > 日本語 > オプション から ハードウェアキーボードレイアウト を 英語キーボード(101/102) に変更というやり方があるが、これはうまくいかず、入力時のキーボードレイアウトには何の影響もなく日本語配列のままだった。

また同設定から English を言語追加してキーボードレイアウトを US QWERTY にした際には、Win+Space で入力をENGに切り替えた際には英語配列(Shift+2の入力が@になる)になったのだが、言語モードを JPN にすると日本語配列(Shift+2 の入力が “) に戻ってしまって英語配列にならなかった。

この時に HKEY_LOCAL_MACHINE\SYSTEM\CurrentControlSet\Services\i8042prt\Parameters の LayerDriver JPN などは上記設定で既に kbd101.dll になっているのだが、これは効かなかったようだ。

他の方法としてググって出てきたキーボードのデバイスドライバを英語キーボードのものに入れ替える方法は、そもそも HID Keyboard Devices 以外の例えば English 101/102 PS/2 Keyboard などを選ぶとドライバ更新がエラーになってキーボード操作自体を受け付けなくなるなどの問題が出たのでうまくいかなかった。外付けのキーボードならうまくいくのかもしれない。

CAPSキーをControlキーに置き換え

特に Emacs keybind を使うなら必須とも言える変更だが、定番なのでどこにでも情報がある。

ASCII.jp:CtrlとCapsを入れ替え! Windowsのキー配列をカスタマイズ (½)|深厚のWindows使いこなしテクニック

自分用には .reg ファイルとしてあらかじめ作ってあるので、ダブルクリックで読み込めば設定は終わり。

KeyhacでキーバインドをEmacs風に変更

しばらく前までは xkeymacs を使っていたのだけど、Windows 7 ですら動きが怪しかったのが Windows 10 ではまともに動作しなくなったので keyhac に乗り換えた。

Keyhac - Pythonによる柔軟なキーカスタマイズツール - craftware

あわせて VC++ Runtime を入れる。上記サイトのリンク先は無くなっていたのだけど、これがたぶん最新版?

Download Microsoft Visual C++ 2015 再頒布可能パッケージ Update 3 RC from Official Microsoft Download Center

Emacs Keybind の設定はこの辺りをほぼそのまま使いつつ、使わないキーバインドだけコメントアウトしておく。ちょっと冗長なので自分で書き直したい気分ではあるが、それはおいおい。

Windows の操作を emacs のキーバインドで行うための設定 (Keyhac版) - NTEmacs @ ウィキ - アットウィキ

これで a の左がコントロールキーでキーボード配列は英語配列でショートカット操作は Emacs 準拠という個人的に快適な状況に持っていくことができた。

余談だがこれをやるとキートップ印字と入力文字が特に記号入力で不一致になるのは前述の通りで、誰かにパソコンをちょっと貸してパスワード入力をしてもらうなどの場合に結構はまったりするのはご愛敬である。

 

米国が障害者に優しい最大の理由

Posted over 7 years ago by yoosee.
  usa

米国に長いこと住んでいたが、確かに日本に比べたら障害者、特に歩行困難者向けインフラの対応は日本に比べたら遥かに行き届いている。街を歩けば車椅子で移動している人はごく普通に見かけるし、車椅子の店員もさほど珍しくない。駐車場は一番近い場所が障害者向けに確保されるよう法律で定められてもいるし、エレベーターやスロープなどの設備も確実に利便性の高い場所に整備されている。

Parking by Disabled Sign

この日米の差はなにから生まれているだろうか。もちろん人造国家アメリカの是として平等と正義を奉じる国であるからこそという理由や、法制度の整備、車社会であること、単純に土地が広いからこそできるインフラの整備も少なくないが、あくまで個人的な意見として言えば最大のポイントはデブが多いからである。

なんの冗談かと思われる諸兄も多いかと思うが極めて真面目に書いている。

デブと言っても恐らく日本人が考えるデブとはスケールが違う。100kg 超えなど当たり前、普通の日本人の約3倍の体積を超える人も少なくない。重みで椅子を破壊する、飛行機のシートから左右がはみ出る、それが米国のデブである。そんな米国の肥満率は38%を超え(日本は約4%)、BMI 25 以上の過体重をカウントすると6割に達する。

デブが多いとなにが起こるのか。端的な答えは高い確率でデブは膝を壊すのだ。

膝を壊して歩くのが困難になる人が多いこの国では、車椅子や電動カートで移動する人はそこらじゅうにいるし、明日は我が身という人が山ほどいる。つまり歩行障害は誰にでも起こる問題と認識されているのだ。

全く歩けないわけではなくても、足が悪くて長時間歩けないので一人乗り電動カートなどの歩行補助具を使っている人は大変多い。ディズニーワールドなどに行っても車椅子やカートのお客さんはたくさんいるし、それを前提としたインフラが用意されている。これによって単に障害で足が悪い人だけでなく、加齢で歩行が困難になったお年寄りもインフラの利益を享受できるようになっている。逆に言えば、足が悪い人向けにインフラを用意しなければ大勢の客を逃すのである。

そんなわけでデブが多いこの国では障害者の中でも歩行の障害は身近な社会の一部であり明日の我が身でもある。決して褒められた話ではないのだが、結局のところどれだけ「障害者の存在が社会にとってあたりまえ」であるかが社会のあり方を決めている好例といえるのではないだろうか。