米国企業での採用や昇進は成果主義ではなく、能力期待値への投資で行われる

Posted 9 months ago by yoosee.
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「成果主義」についてのよくある誤解

日本企業で「成果主義」がうたわれるようになってから結構な年月が経った。成果主義という言葉に厳密な定義があるのか分からないが、一般的には「過去の業務の成果を踏まえて人事評価を行う」ことだと思う。またこれは所謂日本企業での「年功序列」に対するアンチテーゼとして導入されることが多い。

8年以上も米国企業で管理職をやっていたので、たまに「米国企業ではどのように成果主義を運用しているのか」などと聞かれて困ってしまう事がある。人事制度としては米国企業には日本で考えるような成果主義というものはほぼない1からだ。米国企業のそれは、勝手に名付けるならば「能力主義」ないし「投資主義」とでも言うべきものだろう。もしくは「効率性賃金(Efficiency Wage)」という単語もあるらしいそれは、未来の成果への期待値に対して給与を出すものだ。

日本のキャリアとは違う、米国のキャリアパスと採用

日本の成果主義は結局のところ、雇用者が辞めずに長年、それも10-20年以上というサイクルで同じ企業に籍をおくことを前提として、その中に定められたほぼ線形の「昇進(昇級・昇格)」という軸を登るスピードを「成果」によって決めるというものだ。レベル1から5に上がるのに遅い人だと10年かかるところ、成果が高い人は5年で上がる、というのが日本の人事制度上の成果主義である。もしくは、最低給与を少なめにして、成果によって年収を大きめに上下させることを「成果主義」と呼ぶこともある。そして実のところ、こうした話は日本企業の給与支払い抑制策でしかないという事情もある。

対して米国のキャリアは同じ会社内での昇進を前提においておらず、転職が前提となる。また日本の総合職での職能が「レベル」という単一評価軸だとして、米国のキャリアパスは以前にも記事を起こしたように、専門能力である「スキルレベル」を組み合わせて上げる事で次の「クラス」につくことができるようになる「クラスチェンジシステム」である。

採用の基本は「仕事内容を業務内容詳細(Job Description)で定義し、ポジションを開けて応募してもらう」形をとる。そして給与額はこのポジションに大きく左右される。つまり、座る席に給与が付いてきて、その席に座れるかどうかの勝負になっている。毎年の評価と昇給・昇格も存在するが、給与や待遇の最大要素は採用時に決まることが多い。社内での昇格でも原理は同じく、社内のポジションに応募して新しい役職に就くというパターンが多い。

これを採用する側から見た場合、多くの米国企業ではチームの管理職・チームリーダー相当が採用者(Hiring Manager)として雇用を行う。つまり「自分の部下は自分の予算で自分で雇う」が基本のところが多い。そしてこの採用の判断材料は履歴書と数回のインタビュー程度でしかない(ゆえに知人のつてなどのコネが重宝される。最近は LinkedIn などビジネスソーシャルネットワーク経由の評判などもよく使われるが、これもつまるところ情報化されたコネである)。

つまり自社で行われた「それまでの成果」ではなく、その人が持っているであろう能力による「この先の成果」に対する期待値に対し、ポジション・給与という資産を投資判断することになる。

能力期待値への投資

良くも悪くも米国企業は解雇が比較的容易である2。なので投資が失敗だと判断されれば投資の引き上げ、つまり解雇が行われる。また逆に従業員が今の投資を上回る成果を出した場合、従業員が転職してしまわないようにより高い待遇を与える必要があり、つまりはより大きな投資が行われる。この考え方はマーケットの馬車馬の和魂洋才シリーズに詳しい。

解雇が比較的容易だといっても、採用コストや雇って最低数か月間の給与、リソース、なにより時間は取り返せない。なのでこの「投資」判断は管理職の能力として非常に重要なものになる。そうした点で、雇用者側から考えても、日本の「成果主義」と米国の人事の考え方はだいぶ違うものだといえる。


  1. ちなみに米国でもいわゆる「成果主義」を中心に据えたやり方がないわけではない。まず前述のように(全体から見ると影響は小さめだが)成果に応じたボーナスや昇給は存在する。また米国での成果主義の一例は Sales incentive と呼ばれる仕組みで、これはつまり「営業職が売り上げに応じたパーセントで給与を受け取る」制度である。 

  2. 「米国では解雇が容易」というのはあくまでも比較的であり、「能力が低いから解雇」する場合には相手に大して「あなたの能力は(ポジションと給与にに対する)期待値に届いていない」と説明するなど手順を踏まなければならない。昨日まで褒めていた人を突然解雇するのは不当解雇として下手すると訴訟になる。例外は企業の中でその仕事・ポジション自体が無くなることで、例えばある自社サービスを終了する際にそのサービスに関わる部門を丸ごと解雇、というのは可能なので、事業整理はしやすい。ただしこの場合も無くしたポジションを簡単に復活させるなどは許されない。
    またこうした解雇のしやすさを「欧米」でひとくくりにするのは大きな間違いで、欧州は米国に比べて全般的に労働者保護が手厚いし、ドイツに至っては日本と比べてもかなり解雇が難しい。会社を倒産させて解雇することですら大きな制約を受けるくらいである。