無駄な検討を辞めるために必要なもの

Posted about 1 month ago by yoosee.
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かなり間が空いてしまったが、生産性を上げたいならまずその「検討」を止めよ の続きとして、ならばどうやったら「検討」を止められるのかを考えてみたい。

基本的に検討はなんらかの判断をするために行うものなので、「判断」が行われた時点で検討が終了する。であれば判断はどうしたら迅速に行うことができるのか。それに必要な3つの要素は「情報」「専門知識」「裁量」である。判断をするために必要な材料が情報、判断をするための能力が専門知識、組織の中で判断を承認させるための権限が裁量、という形になる。

Decision Making


大事なのは、この「情報」「専門知識」「裁量」を同一人物が持ち合わせること。外からもらえる情報はともかく、専門知識と裁量は同じ人物の中に同居している必要がある。つまり無駄な検討を止めて迅速な判断を行うには裁量を持つ意思決定者が十分な専門知識を持っている必要がある。

多くの場合の判断は未来に対して行うものだ。未来は未知なものであり、未来を判断する情報が全て揃っていることはまずない。そうした状況でも判断するために必要なのが専門知識だ。専門知識によって「明確に劣る選択肢」や「非現実的な選択肢」は即座に破棄できるし、追加検討に何が必要なのかも指示として明確に示すことができる。

日本に限らずどの国でも上級管理職になるほど現場に近い専門知識からは距離が開いてしまうものではある。しかしながら体系だった専門知識を更新するのは不可能ではないし、事実海外の管理者はかなりの量を勉強に費やしている。そもそも専門知識なしに判断するのは非常に困難なのだから、専門知識は必要に迫られて身に着けるものなのだ。

企業における専門職経営層の重要性

多くの国の海外企業では昨今、C-タイトルの種類が増えている。C-タイトルは CEO、Chief Executive Officer (最高経営責任者) のように、ある業務領域での経営トップを示す呼称だが、旧来からある CEO, CFO, CTO, CIO, COO など以外にも、最近は CSO (Strategic), CMO (Marketing), CCO (Communication), CHRO (Human Resource) などなど、C 付きの役職が増えている。

これは内部の昇格や外部からよい人を取るために待遇と見栄えの良い新しいポジションを作っている事情の企業もあろうが、本質的には経営層レベルに業務領域に応じた専門職が必要になっているという事でもある。各業務の専門性が深まってきており、一人の経営者が全ての専門知識を身に着けて意思決定するのが難しくなっているのだ。

専門経営職の必要性は CFO が分かりやすいかもしれない。CFO を置いている企業で、社長や副社長がCFOを兼ねることはあまりない(もちろんCFO専任の副社長はいるだろうが)。CFOは財務や会計に関するスペシャリストであり、その道の専門知識とキャリアが必要だと認識されているからだ。日本でも恐らく財務担当の上級職は財務畑のキャリアを積んできた人が多いだろう。ところがこれが CTO や CIO になるとそうした認識が薄くなり、副社長等がそうしたCタイトルを数多く兼務している企業もある。

現代のビジネスにおいて専門知識は深化を続けているが、そこには企業経営にITシステムが浸透してきたことが関係している。ITシステムにより、今まで個人の暗黙知やノウハウで行われてきた様々な業務、例えばマーケティング、人事、財務、会計、営業、等々がシステムに実装されることにより形式知として可視化されたのだ。形式知はこれまでのように人間の転職や退職によって消滅せず、よりよい方法を模索しつつ深化していく。この深化についていくために、人間側も個別の業務領域ごとの専門知識を深める必要が高まってきているのだ。

ここでの専門知識とは「20年前はこうだった」や「私の経験からいうと」などという不確かなものではない。専門知識は形式知であり、体系だった学問であり、大勢が業務の中で知識と経験を積み上げたプラクティスの上澄みであり、業界で用いられる標準的なフレームワークである。これは業務経験があれば必ずしも身につくものでもなく、自発的に体系を学ぶことが必要なものが多い。業務からは業務で扱っている事象しか学べないからだ。

特に IT で言えば、情報技術に関する「基礎技術」と共に、また業界の「ベストプラクティス」と呼ばれる知識のライブラリを踏まえることが多い。つまり IT に関する判断には、自身のビジネス現場を理解しつつ、ITが適用される業務ドメインに対して、業界標準に照らしてベンチマークするだけの知識と手法が必要になる。

これは CIO についてのみの話ではなく、他の Cタイトルについてはこの条件が反転する。つまり今の意思決定レベルの人たちは、自身が担当する業務領域の専門知識に加えて、それが駆動するITシステムについての知識もある程度必要になるという事だ。

日本企業における課題としての「プロの不在」

翻って日本企業を見ると、流石に最近はジョブ型だの言われ始めていて専門性の高いキャリアも効力されるようになってきているが、相変わらずジェネラリスト育成を主眼においた定期人事異動をしている企業も少なくないのではなかろうか。まして残念なことに、専門知識のない管理職は再生産される。何故ならいま管理職をやっている専門知識のない人たちは、専門知識がある人をきちんと評価できないからだ。

日本企業、特に大企業における謎の風習に、人事異動時の挨拶がある。「全く新しい業務なので慣れるまで皆さんにご迷惑をおかけするかもしれませんが」というあれだ。若手の担当社員ならともかく、課長職や部長職、下手するとそれ以上の経営層に近い職ですらこうした挨拶を聞くことがある。謙遜されているならばまだしも、実際に未経験の業種に移動させられる管理職は決して少なくないだろう。

これはつまり、その分野の素人が意思決定の責任を負わされているという事だ。別にそうした人たちを責めたいわけではない。彼ら・彼女らもつまるところ制度の被害者なのだから。しかしそれ以上に悲劇なのは、そうした管理職の下で働く人たちだ。そうした人たちは、つまるところ前出の「意味のない利益に結び付かない無限の検討」を続けることになるのだから。

ここから脱する手段は明らかだ。意思決定者に専門知識を持たせる。そのためには企業としてのキャリアパスを見直す必要もあるだろう。意思決定者層に向けた教育プログラムも見直すべきだ。また手っ取り早く会社を変えることを考えるならば最初の経営層専門職は外部から雇用することも必要だろう。専門性のない上司は専門性の高い部下を評価できないので、トップ層に専門職がいることは非常に重要になる。

まとめ

無駄な検討を止めるため、迅速に意思決定を行うためには、「情報」「専門知識」「裁量」が意思決定者に集中することが望ましい。このなかでも外部から与えるのが難しく、意思決定の礎になるのはその判断領域に関わる「専門知識」である。

業務の専門性が深化した現代では、専門知識なしに意思決定をするのはほぼ不可能になっている。特に日本の大企業がよくやるようなジェネラリスト育成、専門性のない人を上級管理職として配属するような人事はやめるべきだ。またとっかかりを作るためにも経営レベルの専門職者が存在すること、いないなら外部から採ることが必要になる。

 

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