コミュニケーション能力を最重要視するのは企業組織にとっては敗北でしかない

Posted 28 days ago by yoosee.
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多くの日本企業では採用時に最も求められる能力に「コミュニケーション能力」が挙げられる。確かに大切な能力なのは間違いないのだが、業務を遂行するには他にも様々な専門能力が必要で、個人的にも採用時には仕事に応じて様々な能力を求めることもあり、コミュニケーション能力ばかりが重視される状況には違和感があった。そもそも本当にそこまで組織内の皆が皆にコミュニケーション能力が必要なのであれば、それは組織デザインを失敗しているということではなかろうか。

過去に上司だった Sr. VP(上級副社長)は幾つかの企業で幹部職を渡り歩いた人で、組織運営というスキルにおいて相当なプロだったので、色々なアドバイスや知見を聞かせてもらった。そんな彼から聞いた組織論で一番記憶に残っているのはこんな話である。

企業の組織というのは、組織の内で最大限の工夫が出来るように作るんだ。組織が何かをやりたい時に別の組織と大量の調整をしないといけないのであれば、それは組織の作り方が間違っている。

組織トップの権限内で業務の最適化が可能なら、物事を決めていく際に外部との余計な調整が不要になる。これは仕事を迅速に進めるのに必要不可欠なことだ。裏を返せば「何かを決める時、特に新しいことをしたい際に調整という名のコミュニケーションが大量に必要になると物事が進まない」ということでもある。特に「決める人」は少なければ少ないほど決断は早くなり、必要なコミュニケーションの量は減り、その分だけ余計なコストが減って迅速なビジネスが可能になる。実際に米国企業は基本、そうしたトップダウンの組織構造が前提になっている。

これは大きな組織構造の話だけではなく、チームの単位でも同じことが言える。チームとしての役割がきちんと決まっており、それに必要な権限が与えられていれば、コミュニケーションの多くはチーム内で完結する。当然、チーム内の個人同士でも同様の役割分担がきちんとされていれば、コミュニケーションの必要性はさほど高くなくなる。

企業の目的とコミュニケーションの役割

そもそも一般的な「企業の目的」を考えれば、非常に大雑把には商品やサービスを生産し、それを販売する対価に利益を得ることだろう。企業活動は最終的な売上と利益を生むために費やされるべきであり、つまり製造と販売が主な役割を持つ。

ほとんどの業種においてコミュニケーション自体はなにも生産しないし販売もしない。コミュニケーションは目的を達成するための手段を補助する付帯手段であり、端的には、コミュニケーションは金を稼がない。極端な話をすれば、特定職種を除き、コミュニケーション能力だけが突出した人を100人集めてもお金は稼げないということである。

これはコミュニケーションが不要という話ではない。企業において社内外と円滑に業務を進めるにはコミュニケーションは必須であり、その能力は企業人に求められる汎用スキル単体の重要性としてはトップレベルに重要なのは間違いない。ただしそれはあくまで手段としての重要性であり、「利益を生み出す」という企業活動に直接は貢献しないことを意識すべきだ。

まあつまり、例えばなにかの商品を世に出そうというときに、商品開発や製造、販売の準備などではなく、上司やその上への説明用パワーポイントに膨大な時間をつぎ込み、権限が散らばっているあちこちの部門に決済を持っていって了解を取り、全ての可能性と候補を検討対象とし、関係者すべてを集めた何十人での会議を何度もひらき、なんてことをやっていたら流石に無駄じゃないの? という話である。

利益を直接生み出さないコストがあるならばどうするか。当然それは最小化されるべきである。

コミュニケーションの最小化を考える

報告のイラスト - いらすとや

コミュニケーションが必要不可欠な、しかし生産や販売に直結しないコストならば、考えるべきは効率を最適化しつつコストを最小化する事だ。つまり最初にコミュニケーションが最小で運用できる業務プロセスや組織構造を考えるべきであり、それは本来経営者として非常に大事な企業組織のデザインという仕事である。

採用や育成においてコミュニケーション能力を最重要視するということは、つまり利益を生み出すためのオーバーヘッドコストが大量に必要な企業構造になっているということであり、それを是として個々人の努力でなんとかしようというのは、企業組織のデザインとしては敗北でしかない。

トップダウンが基本の米国企業ではこれはまだしもわかりやすいが、中間管理職からのミドルアップが多い日本企業ではデザイン自体が難しい面はある。とは言えこれをきちんとしないとコミュニケーションというコストはいくらでも膨れ上がるし、それは一番大事な「人間の時間」というリソースをいとも簡単に消費し尽くす。

企業活動においてコミュニケーションは必須であり重要なものなのは間違いないが、一方でそれは可能なかぎり削減し、最小化すべきコストである。冒頭のコメントに戻るが、そのために考えるべきは、組織が、大きいレベルから小さいレベルまで、自己完結での工夫ができるかどうかが一つの観点になるだろう。