日本企業のITが既に陥っている危機的状況について

Posted over 4 years ago by yoosee.
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日本企業のIT投資が増えるの減るのという話が未だにニュースに出ているが、2019年の現時点において、日本でITを導入するハードルが他国に比べて既にけた違いに難しくなっていることを指摘する声は少ないように思う。これは不可逆であり、今後はより難しくなるだろう。

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日本ITの辺境化

なにが問題なのかと言うと、グローバルで展開しているエンタープライズ向けのソフトウェアベンダー、サービスベンダーが既に日本市場に対する投資や個別の対応をほとんど行っていないという現実、つまるところITにおけるジャパンパッシング、日本ITの辺境化である。

  1. ITシステム・サービスは既にグローバル市場が戦場になって久しい
  2. グローバル市場ではグローバルで標準化された仕様をそのまま (Out-of-Box) 持ち込むことが推奨され、また言語は原則として英語である
  3. グローバル市場において日本市場は言語や商習慣の障壁が高い割に小規模な辺境市場に過ぎない
  4. 辺境市場である日本市場に対して、開発的にも導入人材的にも気合を入れて投資する企業は既に少ない

ITマーケットでよさそうなサービスを日本で使おうとしても日本法人などなく、下手すると代理店もなく、日本語の解説資料なども乏しく、日本市場向けのカスタマイズなどしてくれる人もいない。導入コンサルを受けようにも日本語で作業できる人材も少なく、導入事例も当然少ない。既に無い無い尽くしに陥っているのだ。

社名は伏せるが、日本に昔からある外資の大きな日本法人ですら、シンガポールのアジア統括会社などと比べると体制も技術力も本国との交渉力も弱い、と言う状況が増えている。日本法人と一か月話しても埒が明かなかった契約交渉がアジアの統括マネージャーと30分話したら当人の権限で一発OKになったり、日本法人とシンガポール法人から異なった導入条件やサービス仕様を示されて確認すると毎度シンガポール側が正しい、などという状況は既に日常的に起こり始めている。

「英語」という基本かつ高いハードル

サービス提供元の企業が供出する製品情報や事例、Webiner (ウェブ上のセミナー動画) といったコンテンツも、英語のそれに比べて日本語コンテンツは非常に少ない。ITエンジニアの人であれば色々と体験しているだろうが、日本語だけの情報では既に仕事が出来ない、ないし、日本語で情報提供や対応されることを要求条件とすると選択できるシステムが一気に減ってしまう、と言うのがいまの日本でのITシステム導入に関する現実である。

この背景にはそもそもITというものが世界中でコモディティ化している状況がある。しばらく前ならば「ITも各国の状況を踏まえてローカライズ」などという認識もある程度あったが、今では「まずはグローバルでの標準化と共通化ありき」である。つまりは日本に限らず海外の大半の国でも似たような状況になっており、これに対応する方法自体はごく単純であって一般的なものだ。「英語で仕事をする」のである。単純かつ一般的なのだが、今の日本企業には恐らく非常にハードルが高い。

  • システムの仕様と海外の事例を英語のまま理解して日本企業に展開する
  • 導入・保守・更改といった契約と運用を海外の法人と直接議論する
  • 社内プロセスをパッケージをそのまま使った形を基本として標準化する

ITシステム担当者が少なくともこの程度できる必要があり、かつこれはまだ入り口に過ぎない。

更に難しいのは、ITを導入するチーム自身が英語や海外とのやり取りに慣れているというだけでなく、ITシステム導入に置いては企業内の業務部門を強く巻き込むのが必須であることだ。ITは現代企業においては即ちビジネスそのものであり、つまりIT部門のみではなく業務部門の人たちも正しく要件を伝える必要がある。つまりそうした要求部門・関連部門の人たちも海外のベンダーやコンサルとやり取りできないと甚だ効率が悪い。しかしこれは「社内公用語を英語にしろ」みたいな話であり、殆どの日本企業では流石に無理に見える。

ところで最近聞いた話をひとつ。グローバルにビジネスを展開している企業が各国拠点に対して統合されたITシステムを張り出すにあたり、ITシステムサポートのヘルプデスクを開く話になった。多言語対応をどうするかなども検討があったようだが、結論は「サポート言語は英語だけでいいよ」という国がほとぼ全てで、ローカル言語対応を要求した国は日本の事業所だけだった、などという笑えない話もある。実体験としても、欧米圏は既に当然として、少なくともグローバルに顔を向けて仕事をしている企業において、アジアや中東の国でも英語で仕事の話ができない社員がいる国などほとんどない。

竹やり

恐らくこうした危機感を持っている企業自体が現時点では少ない。それは大抵の日本の大企業はSIerと呼ばれる日本国内のIT導入ベンダーを抱えており、基本的にはそこに丸ごと頼る形が変わってないからだ。本来であればそうした企業が上記のような「翻訳」業務も受けるべきで、実際に海外ベンダーを担いで日本対応のフロントに立つ形も少なくはない。とは言え海外の豊富なシステムに比べるとそうした日本対応されているベンダーは少なく、選択肢に乏しい状況には変わりがない。

この話にオチや打開策はない。最終的には選択の余地なく、アジアの一地方としてグローバルの一部にならざるを得ない日本だが、恐らくそれまでの間、非常に制限された国内で使えるITを使いまわし続けるのだろう。それは他国の企業が既に当たり前のものとして享受している、ITが作り出す非常に強力な競争力の底上げを享受できないままグローバルのプレイヤーと闘わなければならないという、竹やりでB29を墜としに行く、ヒノキの棒でラスボス退治に駆り出される、そんな未来が既に来ていることをどれくらい真剣に危機と感じるのかという話であり、楽観的な未来はえがけない。

 

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